2013年3月8日金曜日

タネをとって繋ぐ理由

「かながわの地方野菜」という冊子がある。
神奈川県園芸種苗対策協議会が発行したものだが、購入したくてもすでに在庫がないらしい。
そこで、昨年、県農政課でお借りしてコピーさせてもらった。
「二宮丸」「大崩のサヤエンドウ」「釜利谷のレンコン」など、初めて聞く名前に興味がそそられた。

ところが、先日、この冊子には書かれていない、知られざる伝統野菜を県内で発見した。

白芽という里芋、正月菜という菜っ葉、鞘に入る個数が少なく粒が小さなソラマメ、草ネギというワケギなど。自給用に野菜をつくっている81歳のおばあさんが、ほぼすべての野菜のタネとりをしている。ソラマメと正月菜は、先祖代々タネをとり続けているらしい。

さらに、こうした野菜は地域の他のお年寄りも1品種か2品種はタネをとっている人もいて、地域全体で馴染みの野菜となっているようだ。

里芋「白芽」の畑


特に正月菜には、年末年始の食にまつわるエピソードがあり、興味深い。
タネを蒔いてから70日間で育つ。年末に収穫して、正月に雑煮に入れて食べるそうだ。

「小松菜やほうれん草とは違う、これじゃなきゃだめ。今でも年末には親戚にも送ってあげていて、喜ばれてるよ」

「いまでは雑煮にいろいろな具を入れるけれど、昔は正月菜と餅だけ。それを正月から1月4日まで毎日食べたんだ」

お年寄りたちの話を聞き、8月に奈良県の清澄の里「粟」で聞いた話を思い出した。
粟の社長の三浦雅之さんによると、タネをついでいるお年寄りたちにその理由を尋ねると、判を押したように「おいしいから」という答えが返ってきたという。

その野菜を、家族や親戚、友人が待ち望み、喜んでくれる。
タネを継ぐ、タネを守るといった正義感や義務感でない。
おいしい野菜をつくってきた結果として、いまもタネが繋がれてきている。


一方で、味が好まれずに消えようとしているなか、細々とタネが繋がれている伝統野菜もある。

無農薬野菜を農家から委託販売している店の前を通っていたら、たまたま「かながわの地方野菜」に載っていた「鵠沼かぼちゃ」を発見した。

鵠沼かぼちゃ


「昔はこのかぼちゃを夏に収穫して保存しておいて、冬至に煮て食べたんだけどね」

そう説明してくれた店主によると、鵠沼かぼちゃは西洋かぼちゃのようなホクホク感がなく、水っぽいので、好まれないらしい。料理の幅も西洋野菜は自在だが、鵠沼かぼちゃは「煮物」とピンポイントだ。

それでも、このかぼちゃを作り続けている生産者がいて、こうして野菜が残っている。
消えゆく伝統野菜を守るという思いか、それとも、味以外に魅力があるのか。
まずはなによりも、食べてみなくては。


(柏木智帆)

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