2013年3月8日金曜日

食の野望を持った「SYOKU-YABO農園」

三浦半島最高峰の大楠山のふもとに、とても魅力的な場を発見した。
その名も「SYOKU-YABO農園」。
郷土食や国産品を見直そうという「食の野望」を持った農園で、飲食店も兼ねている。

JR逗子駅からバスで30分。「大楠芦品口」バス停で下車。
しばらく歩くと、この看板が見えてくる。

2010年10月にオープン。
敷地内には畑が広がり、小川が流れ、鳥のさえずりや虫の鳴き声が聞こえる。

なだらかな段々畑。片隅にモバイルハウスを発見!

畑では農薬や化学肥料は使わない。
店で提供する料理には収穫した野菜も使っているが、店主の眞中やすさんには「無農薬・無化学肥料の野菜が当たり前の世の中にしたい」という思いがある。
そのため、あえて「不使用」をうたっていない。


店舗脇の畑で収穫した野菜も料理に使う。


屋外には手作り店舗やテーブルがあり、食事を提供している。
食事メニューは、定食のみ。かてめし、味噌汁、小鉢2品、漬物で950円。


かてめしとは、海草や野菜、雑穀などでかさ増ししたまぜご飯のこと。
「かてめしという言葉には日本人の知恵があり、日本の根っこを伝えられるのでは」と眞中さん。
「混ぜご飯」でなくあえて「かてめし」と呼んでいる。
外食はハレかケかと言えば、ハレの食事。だが、メニューからわかるように、ここではケの料理を意識している。「ハンバーグやステーキではなく、本当の意味で豊かな料理」だ。
季節ごとの旬の食材、日本の伝統食の知恵が詰まった調味料を使っている。

特に、調味料に対しては徹底している。
「スーパーには画一した調味料ばかりだけど、それぞれの郷土にある素晴らしい調味料を広めていきたい」と、風土の恵から生まれた土地ごとの調味料を調べ、発掘している。

たとえば、魚醤。石川県の「いしる」、秋田県の「しょっつる」など昔からの伝統魚醤をはじめ、まちおこしとして新たに開発されたマグロ魚醤やアユ魚醤、サバ魚醤など、8種類を使い分ける。
しょうゆの種類は「数え切れないほど」。
火入れを一切しないでつくられた高知県の完全天然塩の製造所や、玉締めという伝統製法で含有量の3割しか絞れないというゴマ油の製造工場など、製造工程を見に現地まで足を運ぶこともある。

「日本のソウルフード」という味噌汁に使う味噌は、40種類を常備。すべて国産原料で無添加。
客にはメニューリストとともにみそのリストも手渡され、好みの味噌を選べる。
稗を使った岩手県のみそ、麹を使わないでつくる徳島県の「ねさしみそ」、福島県の「ずんだみそ」など、地域色豊かな味噌がずらり。
なかには、1キロ4、5千円する味噌もある。
味噌の香りや風味を大切にするため、注文を受けるごとに1食1食、味噌を溶かしてつくっている。

産地や特徴などが書かれた味噌リスト。

農園は、表現の場として、イベントや上映会などが不定期で行われている。
敷地内には、枕木や竹、カヤでつくったステージがあり、スクリーン、音響、プロジェクターが備わっている。食や農だけでなく、音楽、芸術など、多彩な表現の場にもなっている。
老若男女、さまざまな人たちが集まってくることで、多くの人たちに「食の野望」に目を向けてもらうきっかけ作りにもなっている。


店長の眞中やすさん(左)とスタッフの風間朋美さん(右)

「外食店をやっていて矛盾があるかもしれないけど、家族で食卓を囲む楽しさがすべてだとおもっている。興味を持った調味料を使って家庭でも料理をつくって食べてもらえれば」と眞中さん。

決して押しつけはしないが、客から質問されたらなんでも包み隠さず教える。調味料の正体やその原料、値段、製造元の連絡先まで。企業秘密は一切ない。
農園での食事をきっかけに家庭の食卓が豊かになったり、郷土の調味料をつくっている地方の活性化にも一役買えればとの願いもあるという。

「郷土料理を大切に思ったり無農薬の野菜を求めたりと食に対する感性が変われば、日本の食は変えられる」。

食材そのものだけでなく、日本伝統の食文化を大事にしている「SYOKU-YABO農園」。

一方で、国内ではイタリアンや中華など、さまざまな国の料理が食べられ、横須賀市がある神奈川県の学校給食ではご飯でなくパンも出る。「地産地消」は食材だけでなく、食文化も含めたものであってほしい。

(柏木智帆)

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