2013年3月8日金曜日

野口さんのタネまき

昨年の秋、野口種苗研究所の「みやま小カブ」の播種に参加した。

タネとり畑は、埼玉県の山奥。青く連なる山々を望む段々畑。深い緑の木々に囲まれ、空が広い。
野口さんによると、「下から虫がこないし、花粉も飛んでこない。昔はこういう場所で農家はタネをとっていた」。


草を刈って耕耘した畑。
この後、「みやま小かぶ」と「新西町ダイコン」のタネまき。


だが、こうした場所でタネとりをしていた農家の子ども世代は街へ働きに出ていて後を継がず、次第に農家の高齢化によってタネとり農家はどんどんいなくなってしまった。

野口種苗では、これまで契約していた農家の「三浦ダイコン」のタネは入手できなくなり、「練馬ダイコン」のタネもそのうち入手できなくなる可能性があると聞いた。

「海外で大量に採種されるタネは単価が安い。すると、日本で農家が苦労してタネをとっても単価が安くなる。農家からはもっとタネを高く買う必要がある」

そんな野口さんの言葉に、タネも野菜も同じ構図であることに改めて気づいた。

ことし採種した「みやま小カブ」のタネを見せる野口さん


作業の休憩中、播種に参加していた平塚市の固定種・自然栽培農家の臼井照彦さんの言葉に共感した。

「いい野菜やいい味噌などを高い高いというが、お金の使い方が間違っている。収入のうち大半をレジャーなど食費以外に費やす人が多いが、人間の体は食べものでできているのだから、食べものにこそお金をかけるべき」

最近は家庭菜園を行う人が増えてきたらしい。しかも、野口さんによると、「自分の食べるものは自分でつくる」「安全で健康な野菜を食べたい」という思いで始める30、40代の女性が多い。

収穫時期がまばらな固定種は少しずつ食べられるので、家庭菜園に向く。
臼井さんのように、固定種のタネで野菜を生産している自然栽培農家も全国に点在している。

消費は社会を変える。

どこから何をいくらで買うか。

その選択の1つ1つが、生産者を支え、タネとりによって命をつなぐ〝本来のタネ〟を守ることにもつながる。

固定種のタネの需要が増えることで、タネとり農家が増えてほしいと心から思う。


(柏木智帆)

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