栽培方法の未熟さも相まって、楽しみにしていたさまざまな種類の枝豆も実が入らず、好物の島オクラも実らず。
実らないからタネもできず。けっきょく自分で育ててタネまでとれたのは、インゲン豆と黒もちトウモロコシだけだった。
茶色く乾燥したインゲン豆の鞘の中に入った小さなマメ。来年に命を繋ぐのだと思うと愛くるしい。
一方で、鞘は堅くてかさかさとしていて、特に美しいものでもないなと思っていた。
ところが、8月上旬に長崎県雲仙市の「種の自然農園」で岩崎政利さんの話を聞き、その見方が変わった。
「野菜が一生を通して最期に表現する、タネが実って枯れる瞬間。そこには、熟練した美しさがある。万感尽きて、子孫を残している。私に最期を託して。こんなに素晴らしいことが農業にはある。それが農の原点なんです」
にんじんのタネをとる岩崎さん |
なるほど。
たちまち、鞘に母性を感じるようになった。
野菜が意志を持った生きものとして、よりリアルに迫ってくる。
岩崎さんは、野菜に命を吹き込む魔法使いのようだ、と本気で思う。
自分で栽培してとったタネ。そのタネと私との間には、毎年購入する「はじめまして」のタネとは違う、親密さが生まれる。まだ1回目のたねとりだというのに。
岩崎さんが生産した佐賀女山大根の鞘。 棒でたたいたり足で踏んだりしてタネをとる。 |
「タネは単なるタネではない。歴史や守った人の魂が詰まっている」と、岩崎さん。
岩崎さんをはじめ、さまざまな人たちによって脈々と受け継がれきた野菜には、それぞれにストーリーがある。そうした野菜には、おいしさはもちろん、愛着と魅力がきっとある。
(柏木智帆)
0 件のコメント:
コメントを投稿