城ヶ島では、タネとりを繰り返すことで風土に根付いた地域固有の野菜が残っている。正月菜もそうした代々食べ継がれてきた「城ヶ島野菜」の1つ。
収穫したての正月菜 |
正月菜は日本の菜花。
茎が長く、「茎を食べる。そこがしゃきしゃきしておいしい」のだという。
地元のお年寄りたちは子どものころから雑煮に入れて食べていたらしい。
みなさん、「正月はこれじゃなきゃだめ」、「風味がいい」と口々に言う。
収穫したての正月菜を持ってバス停に立っていたら、白髪のおばあちゃんが、
「あらっ正月菜」
と話しかけてきた。
「昔はお雑煮といえば正月菜だったけど、いまは三崎(城ヶ島へ渡る橋の手前の地域)に住んでいるから小松菜にしてるけど、正月菜のほうがおいしいの」
隣に立っていた道路工事の誘導係の中年のおじさんは
「この葉っぱ、おろぬき大根じゃないの?三浦に30年いるけど、正月菜なんて初めて知ったよ」
たしかに、城ヶ島のお年寄りたちは「今でも正月菜を食べる」と話すけど、30、40代の人たちは食べている人が少なかった。
城ヶ島で生まれ育った老人会長の村田吉雄さんは母から畑を引き継いだ30年ほど前から、母が守ってきたタネをとりながら栽培している。正月菜は70日ほどで成長するため、年末の収穫にあわせて10月下旬ごろにタネをまく。
収穫した正月菜を見せる村田さん |
正月には、ニンジン、里芋、かまぼこ、鶏肉、焼き餅などを入れたすまし知る仕立ての雑煮の上に、茹でた正月菜を乗せて食べるという。
茹ですぎないのがこつ。「苦みもあり甘みもあり、おいしい」
82歳の星野サワさんは、かつては正月菜と焼き餅だけの雑煮を食べていた。だから、正月菜を乗せるだけの現在よりも、たくさんの正月菜を食べたらしい。それもシンプルでおいしそう。
一部は収穫しないでそのまま畑に残しておき、花を咲かせる。黄色い花。
春先にタネをとり、次の正月のためにタネまき時期まで保管する。
いただいた正月菜を茹でて食べたみた。クセがなくて、風味があって、たしかにおいしい。
バス停で出会ったおばあちゃんに正月菜をお裾分けすればよかった、と後で気づいた。
(柏木智帆)
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